大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

金沢地方裁判所 平成3年(ワ)248号 判決 1992年1月28日

主文

一  被告は原告に対し金五九四万八五二六円及び内金五八三万九九〇四円に対する昭和五七年九月二三日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを九分し、その一を被告、その余を原告の負担とする。

四  この判決は第一項について仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

被告は原告に対し金五三九一万〇二五五円及び内金二五三七万九四一九円に対する昭和五七年九月二三日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  請求原因

1  原告は訴外株式会社カナトコーポレーションとの間で、(以下「訴外会社」という)原告が訴外会社の別紙保証委託契約表(以下「契約表」という)の一ないし四の四回にわたり、訴外金沢信用金庫(以下「訴外金庫」という)から契約表記載の金員を借り受けるについて保証すること、原告が訴外会社の右借受けにかかる債務を代位弁済したときは、訴外会社は原告に対しその代位弁済額及びこれに対する代位弁済の翌日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による損害金(以下「約定損害金」という)を支払うことという内容の保証委託契約をした(争いがない。)。

2  被告は契約表一ないし四の保証委託契約上の訴外会社の債務について連帯保証する旨各保証委託契約締結日に原告に対し約した(争いがない。)。

3  訴外会社は原告の保証の下に訴外金庫から契約表記載の借受日に同記載の金員を同記載の各約定で借り受けた(争いがない。)。

4  訴外会社は昭和五七年七月六日金沢手形交換所の取引停止処分を受けたので、同日、契約表一ないし四の各借受金について期限の利益を喪失した(争いがない。)。

5  原告は、昭和五七年九月二三日、訴外金庫に対し、訴外会社の

(一)契約表一の借受残額五九二万円及びこれに対する昭和五七年七月一日から同年九月二二日迄の年九・三パーセントの割合による利息一二万六七〇四円、計六〇四万六七〇四円を(甲一、二、弁論の全趣旨)

(二)契約表二の借受残額八一八万五〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年六月二九日から同年九月二二日迄の年九パーセントの割合による利息一七万三五六六円、計金八三五万八五六六円を(甲三、四、九)

(三)契約表三の借受残額三〇〇〇万円及びこれに対する昭和五七年六月一八日から同年九月二二日迄の年九パーセントの割合による利息七一万七五三四円、計金三〇七一万七五三四円を(甲五ないし七、一〇)

(四)契約表四の借受残額一三六〇万円及びこれに対する昭和五七年六月一八日から同年九月二二日迄の年九パーセントの割合による利息三二万五二八二円、計金一三九二万五二八二円を(甲一一、一二)

それぞれ代位弁済して訴外会社に対する右同額の求償債権を取得した(甲一三、一四)。

6  右求償金に対し

(一)昭和五七年一〇月一二日より平成三年六月六日迄の間に、訴外会社から金八万八八〇〇円、契約表一の保証委託契約の連帯保証人の一人である前田英明から金一一万八〇〇〇円(内訳は別紙明細書(一)のとおり)を前項(一)に対する内入れとして

(二)昭和五七年一〇月一二日、訴外会社から金一一万一〇〇〇円を前項(二)に対する内入れとして

(三)昭和五七年一〇月一二日より平成三年六月三日迄の間に、訴外会社から金五八万二二〇〇円、契約表三、四の保証委託契約の連帯保証人の一人である瀬戸友義から金一三八八万円、被告から金一二一五万九一一七円(競売配当金)(内訳は別紙明細書(二)のとおり)を前項(三)に対する内入れとして

(四)昭和五七年一〇月一二日より平成元年一二月一日迄の間に、訴外会社から金二〇万九七五〇円、瀬戸友義から金六五二万円(内訳は別紙明細書(三)のとおり)を前項(四)に対する内入れとして

各支払いがあった(弁論の全趣旨)。

7  よって原告は、連帯保証人である被告に対し、第5項の求償金から第6項の内入金を差し引いた残額金二五三七万九四一九円と右内入金に対する代位弁済の翌日である昭和五七年九月二三日より各内入日迄の約定損害金二八五三万〇八〇六円(内訳は別紙明細書(一)、(二)、(三)のとおり及び第5項(二)の内入れによるものは金八八八円)計五三九一万〇二二五円及び右残額に対する昭和五七年九月二三日から支払済に至るまでの約定損害金の支払を求める。

二  抗弁

1  訴外会社は商人である(明らかな争いがない。)。

2  訴外会社が原告に対し最後に求償金を支払ったのは昭和五七年一〇月一二日である(明らかな争いがない)。

3  昭和六二年一〇月一二日が経過した(顕著な事実)。

4  被告は本件訴訟において右商事時効を援用する。(顕著な事実)。

三  再抗弁

1(一)前田英明は昭和五六年三月五日契約表一についての保証委託契約上の訴外会社の債務につき連帯保証した(甲一七ないし一九)。

(二)原告は昭和六一年一〇月一日頃前田英明に対し請求原因5(一)の求償金についての保証債務金の支払命令申立てを金沢簡易裁判所になし、同年一〇月二八日頃右支払命令につき仮執行の申立てをし、同日仮執行宣言付支払命令がなされた(争いがない。)。

(三)従って契約表一の訴外会社の求償金債務及び被告の同債務についての保証債務については前記(二)の支払命令申立てによる履行請求が、訴外会社及び被告に対しても効力が生ずることから、消滅時効が中断した(民法四五八条、四三四条により認められる)。

2(一)被告及び前田美代子は昭和五三年五月二五日訴外金庫との間に、別紙物件目録記載の物件について信用金庫取引による債権を極度額三六〇〇万円として担保する旨の根抵当権設定契約をし、同日その登記手続きを経由した(争いがない)。

(二)被告及び前田美代子は昭和五六年一一月一八日訴外金庫との間に別紙物件目録記載の物件につき契約表四の債権を担保する旨の抵当権設定契約をし、同日その登記を経由した(争いがない。)。

(三)別紙物件目録記載の物件の抵当権者である安田火災海上保険株式会社外五名が金沢地方裁判所に、昭和五七年九月六日頃任意競売(以下「本件競売」という)の申立てをし、その頃同開始決定がなされた(争いがない。)。

(四)原告は請求原因5記載の代位弁済により、前記(一)、(二)の根抵当権、抵当権を取得した。

原告は昭和六三年五月金沢地方裁判所に、前記(一)の被担保債権として請求原因5(二)、(三)の求償債権の、前記(二)の被担保債権として請求原因5(四)の求償債権の各債権計算書を提出し、同月一八日、配当金請求書を提出し、同日金一二一五万九一一七円の配当金を受領した(争いがない。)。

(五)原告が右配当金を受領することにより、被担保債権の存在を公の手続によって認められたというべきであるから、「差押」に類似するものとして、前記(三)の競売申立時である昭和五七年九月六日頃から原告が前記配当金を受領した昭和六三年五月一八日迄消滅時効の進行は中断した。

被告の本件保証債務についても同様に消滅時効の進行は中断した。

四  再抗弁に対する被告の主張及び再々抗弁

1(一)本件競売を申し立てた債権者は原告ではなく(争いがない。)、被担保債権の債権者は被告、担保目的不動産の所有者は被告及びその妻である(甲一三、一四、乙二、三)。

(二)本件競売手続では原告の(根)抵当権の被担保債権(請求原因5(二)ないし(四))の債務者である訴外会社には何らの通知もなされていないし、原告においても競売開始の事実や配当金受領の事実を訴外会社に通知していない。

2  原告は請求原因5(四)の債権については本件競売手続きにおいて配当を受けていない(甲一六)。

また、原告は本件競売配当金全額を請求原因5(三)の内入れとしている(明らかな争いがない)から、同(二)の債権については配当を受けなかったことになる。

3  本件では請求原因5(二)(三)(四)の各債権は、本件競売申立時には未発生であり、配当期日には既に消滅時効が完成していた。

4  請求原因5(二)(三)(四)の各債権は前記3のとおり消滅時効が完成し、配当を受けられる債権ではなかった。

しかるに、原告は配当期日に金一二一五万九一一七円の配当を受けたが、このうち金七九五万四四八一円は不当利得である。

仮に請求原因5(一)の時効が中断されていたとしても、被告は右不当利得返還請求権と請求原因5(一)の残額債務とを対当額において相殺する。

5  仮に配当金の受領が消滅時効の効力発生前であり、有効な弁済になるとしても、訴外会社が消滅時効を援用すると、被告はこの配当により取得した訴外会社に対する求償権を行使できない。これは原告が過失により主債務者である訴外会社に対し時効中断の手続きを取らなかったことに起因する。

原告は過失により、代位すべき債権を消滅させたものであるから、被告に対し債権者の担保保存義務類似の義務を怠ったことにより金七九五万四四一八円の損害賠償義務を負う。被告はこの損害賠償請求権と請求原因5(一)の残額債務とを対当額において相殺する。

五  よって、再抗弁2(五)並びに四「再抗弁に対する被告の主張及び再々抗弁」が主な争点である。

第三  争点などに対する判断

一  再抗弁2(五)、第二の四1について

主債務者である訴外会社に対して、競売開始や配当金受領の事実について民法一五五条所定の通知がなされたことを認めるに足る証拠はない。

主債務者である訴外会社に対して民法一五五条所定の通知がなされていない以上、被告ら所有物件に対する競売、原告の配当金受領による差押え類似の効力により、主債務者である訴外会社に対して時効中断の効力が生じる余地はない。

したがって、被告の援用した主債務者(訴外会社)の債務の中請求原因5(二)ないし(四)についての時効消滅は効力を生じる。

二  第二の四3、4、5(再々抗弁)について

成立に争いがない乙一九、二〇号証によれば、本件競売手続において、執行裁判所が適式な公示送達により被告に対し配当期日に呼び出しをしていることが認められ、右配当期日に被告その他時効援用権者が時効を援用したことを認めるに足る証拠はない。

そして消滅時効による債権消滅の効果は、時効が援用されてはじめて効力を生ずるものと認められ、原告が配当金を受領した当時、時効の援用がなかったことは前記のとおりであるから、原告の配当金受領は法律上の原因なき不当利得とはいえない。

また前記のとおり適式な公示送達により配当期日に呼出しを受けた被告は、同期日に時効援用の機会があったのに、その援用をしていないのであるから、原告が被告のために時効中断すべきであるという被告主張の担保保存義務違反類似の義務懈怠による被告の原告に対する損害賠償請求は成立の余地がなく、理由がない。因みに被告は訴外金庫及び原告に対し担保保存義務を免除する旨約している(甲八の一、二、甲一一、一七ないし二七)し、本件競売配当により被告が主債務者(訴外会社)に対し取得する求償権の消滅時効は配当時から進行する。

第四  右の事実によれば、原告の請求は、主文第一項(請求原因5(一)の金員から同6(一)の内入金を差し引いた残金及びこれに対する代位弁済の翌日から完済までの約定損害金並びに同6(一)の内入金に対する代位弁済の翌日から内入日までの約定損害金の支払)の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文、仮執行宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

別紙

物件目録

金沢市高尾南二丁目一三五番

一 宅地  二七二・九五平方メートル

(所有者 被告)

同所二丁目一三五番地所在

家屋番号 一三五番

一 鉄骨木造瓦葺三階建居宅

床面積 一階 一〇六・七二平方メートル

二階 一三二・二八平方メートル

三階  三九・三五平方メートル

(共有者 被告、前田美代子、共有持分各二分の一)

保証委託契約表

一、保証委託契約締結日、昭和五六年三月五日

右の保証による取引の内容

(一)契約名    昭和五六年三月五日付金銭消費貸借契約

(二)借受日    昭和五六年三月五日

(三)借受金    金八〇〇万円

(四)契約の大要

(1)弁済期限   昭和六一年二月末日

(2)弁済方法   昭和五六年三月より毎月末日に金一三万円宛、右弁済期限に残額金三三万円を完済する。

(3)利息     年九・三パーセント(年三六五日の日割計算)

(4)訴外会社が手形交換所の取引停止処分を受けたときは当然に期限の利益を喪失し、債務を直ちに弁済する。

二、保証委託契約締結日、昭和五六年七月二八日

右の保証による取引の内容

(一)契約名    昭和五六年七月二八日付金銭消費貸借契約

(二)借受日    昭和五六年七月二八日

(三)借受金    金一〇〇〇万円

(四)契約の大要

(1)弁済期限   昭和六一年七月二八日

(2)弁済方法   昭和五六年八月より毎月二八日に金一六万五〇〇〇円宛、右弁済期限に残額金二六万五〇〇〇円を完済する。

(3)利息     年九パーセント(年三六五日の日割計算)

(4)期限の利益喪失、第一項(四)、(4)に同じ。

三、保証委託契約締結日、昭和五六年一一月一八日

右の保証による取引の内容

(一)契約名    昭和五六年一一月一八日付金銭消費貸借契約

(二)借受日    昭和五六年一一月一八日

(三)借受金    金三〇〇〇万円

(四)契約の大要

(1)弁済期限   昭和六三年一一月一七日

(2)弁済方法   昭和五七年一二月より毎月一七日に金三〇万円宛、右弁済期限に残額金八七〇万円を完済する。

(3)利息     年九パーセント(年三六五日の日割計算)

(4)期限の利益喪失、第一項(四)、(4)に同じ。

四、保証委託契約締結日、昭和五六年一一月一八日

右の保証による取引の内容

(一)契約名    昭和五六年一一月一八日付抵当権設定金銭消費貸借契約

(二)借受日    昭和五六年一一月一八日

(三)借受金    金一五〇〇万円

(四)契約の大要

(1)弁済期限   昭和六二年一一月一七日

(2)弁済方法   昭和五六年一二月より毎月一七日に金二〇万円宛、右弁済期限に残額金八〇万円を完済する。

(3)利息     年九パーセント(年三六五日の日割計算)

(4)期限の利益喪失、第一項(四)、(4)に同じ。

明細書(一)

<省略>

明細書(二)

<省略>

明細書(三)

<省略>

<省略>

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例